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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)143号 判決

一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(1) 開口について

本願発明の明細書(成立に争いのない甲第八号証)において、「開口」に関する各記載を考察すると、「開口」という用語は一貫して「空洞の開口」を意味するものとして用いられていることが明らかである。そして、本願発明の図面(成立に争いのない甲第二号証添付。以下単に「図面」という。)、特に第2図及び第4図からみて、空洞23は基体の前面18に設けられた凹部25にのぞんでいるが、この二つの空間23と25とが相接する部分が開口24にほかならない。空洞23は、開口24により凹部25を介して基体の前面18に連通している。もつとも、この凹部は本願発明にとつてその構成上必須のものではないから、凹部を設けない実施態様の場合には、空洞23は、その「開口」が直接、基体の前面18にのぞんで連通することになるのは当然のことである。

そうであれば、本願発明の明細書及び図面において、「開口」の位置及び構造が不明であるということはできない。

(2) 凹部について

本願発明の明細書において「凹部」については、特に定義がされていない。ところで、ごく常識的な解釈として、「凹部」とは、くぼんだ部分、すなわち、空間を占有する構造物において、ある表面から内方に向けてくぼんでいる部分をいう。そして、右明細書の記載及び図面によると、第1図及び第2図に示されているように、基体における左右の壁19、20は、基体の各端面15、16の部分をそれぞれ延長して、前方に突出させて形成されていることから、基体の前面18は各梁26の外表面が形成する面にほかならない。したがつて、「凹部25」は、基体の前面18からその内方に向けて凹状にくぼんでいるとともに、その底面に空洞23の開口が位置するように形成されていること、「凹部25」は基体の前面18にのぞみ、各「凹部25」はその左右にある梁26によつて隣接する凹部とそれぞれ空間的に隔てられていること、各「凹部25」の上下は、それぞれ基体の頂面13及び底面14とその境界を接していることが明らかである。

そうであれば、本願発明の明細書及び図面において、「凹部」の位置及び構造が不明であるということはできない。

(3) 空洞について

本願発明の明細書の記載及び図面、特に第3図及び第4図からみて、「空洞23」は、基体内方に部分的に延び、頂面及び底面から隔離され、開口24により凹部25を介して基体の前面18に連通して設けられていることが明らかである。また、「空洞の縁部」については、一般に「縁部」とは、「ふち」あるいは「はし」を意味するところ、右明細書においては、導電材料の層28を設けるべき場所を示すために使用されているものであり、第4図においても、導電材料の層28が「空洞23」の開口24の近傍の内壁に設けられていることが示されていると見ることが可能である。

そうであれば、本願発明の明細書及び図面において、「空洞」の位置及び構造が不明であるということはできない。

(4) 導電層について

本願発明の明細書の記載及び図面、特に第4図からみて、「導電層28」(導電材料の層28をいう。)は、空洞23の縁部に設けられているとみうることは上述のとおりである。一方、導電路21は基体の頂面13上に設けられ、その端部は頂面の縁部まで延びて、基体の前面18に存在する凹部25の縁に接しているのであるから、「導電層28」と導電路21との間に直接的な接触はないけれども、以下に述べるように、導電性材料のパツド27及び金属性堆積物30を介することにより、「導電層28」は導電路21と電気的に接続されることになる。

そうであれば、本願発明の明細書及び図面において、「導電層」の位置及び構造が不明であるということはできない。

(5) 導電性材料のパツドについて

本願発明の明細書の記載及び図面、特に第2図及び第4図からみて、「導電性材料のパツド27」は、基体の前面18にある凹部25の底面に存在する空洞23の開口の周囲に設けられ、さらに、左右に向つては凹部の側部25aまで延び、上方に向つては凹部25の縁、すなわち、凹部25と基体の頂面13との境界にまで及んでいるものとみることが可能である。しかして、右明細書及び図面によれば、「導電性材料のパツド27」は、このように配設されることによつて、空洞23の開口付近の内壁に設けられている導電層28及び基体の頂面13に設けてある導電路21の端部21aとの間を電気的に接続し、空洞に強制的に挿入されて導電層28と接触しているリード線22と基体の頂面13上の導電路21、ひいては電気的装置との間に電気的回路を形成するものと読みとることが可能である。

「パツド」という用語は、モジユール形式の電気的構成要素の技術分野における技術用語として確立されたものではないけれども、一般に「詰め物」あるいは「当て物」の意味で広く用いられている。本願発明の明細書において、「導電性材料のパツド」について特に定義されておらず、具体的にいかなる物質で形成するのかも明らかではないが、本願発明の技術内容を理解する上で格別の支障が生ずるものとは認められない。

また、第4図において、記号「27」が付されている場所は、いささか不正確なものというべきであるが、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものであれば、「パツド」に関する右明細書の記載に基づいて、前述のような「パツド」の位置及び構造を把握できないものではない。

そうであれば、本願発明の明細書及び図面において、「導電性材料のパツド」の位置及び構造が不明であるということはできない。

(6) 金属堆積物について

本願発明の明細書の記載及び図面、特に第1図、第3図、第4図からみて、「金属堆積物30」の役割は、リード線22と、凹部25に設けられ空洞23の開口24を包囲する導電性材料のパツド27ないし空洞23の内壁の導電層28との間の電気的接触を良好ならしめると同時に、その間の機械的取付けを確実にすることであり、しかも、これを設けるプロセスにおいては、いわゆる半田を流し込むような手法が採られているのであるから、このことからすれば、「金属堆積物30」としては、半田のような低融点の導電性金属が適用されるものと考えられる。すなわち、「金属堆積物30」は、半田を流し込むような方法で、凹部25に流し込まれ、凹部25に設けられている導電性材料のパツド27とリード線22の中心部22cに付着せしめられるところ、パツド27は空洞23の開口24の周囲にひろがり、左右は凹部の側部25aに、上方は基体の頂面13との境界にまで達して導電路21の端部21aに接するものであるから、「金属堆積物30」も当然、パツドが及んでいる全範囲をおおうように凹部25内に堆積し、さらに、その一部は開口24から空洞23内にもはいり込んで、開口付近の導電層28が設けてある部分にまで達することになるのであつて、かくして形成された「金属堆積物30」の状態は、第1図、第3図及び第4図に示すとおりである。

そうであれば、本願発明の明細書及び図面において、「金属堆積物」の位置及び構造が不明であるということはできない。

(7) 効果について

本願発明の明細書において、効果としては、概括的に、「以上の説明から明らかなごとく、非常に簡単で、しかも、構造的に丈夫な電気的構成要素が与えられるとともに、本願発明による電気的構成要素を作る際の工程も十分に説明された。」と記載されているほかは、効果として明示されたものはない。しかしながら、実質的ないし内容的には、右明細書全般の記載を通じて、セラミツクス絶縁性基体などの主表面に電気的装置及び導電路を支持した非常に簡単で、しかも丈夫な、複数のリード線付の回路モジユールを提供する、という本願発明の効果は開示されているものということができる。

そして、前掲甲第八号証(本願発明の明細書)に徴すれば各構成部分によりもたらされる個別的効果としては、基体の側部に凹部及び空洞を設け、この空洞内にリード線の一端を挿入して固定することにより、所望の特性を維持しながら、従来のものより小さい回路モジユールを提供することに成功したこと、空洞の開口部附近の内壁に導電層を設け、空洞の開口の周囲に導電性材料のパツドを設け、右パツドをして導電層及び基体頂面の端部にある導電路とそれぞれ接触せしめることにより、空洞内に挿入したリード線と導電路とを電気的に接続し、さらに空洞の開口部附近の内部から導電性材料のパツドが導電路と接触している部分に至るまでを金属堆積物でおおうことにより、右電気的接続を良好かつ強固ならしめたこと、導電層はリード線と導電性材料のパツドとの間における機械的及び電気的結合を改善し、金属堆積物の一部を空洞内に引きつけるものであること、などを挙げることができる。これらの各個別的効果が決して相互に矛盾するものではなく、全体として、本願発明の効果の実現に寄与するものであることも明らかである。

そうであれば、本願発明の明細書において、本願発明の効果が不明であるということはできない。

三 本願発明の明細書及び図面の記載は、決して十分望ましい程度にされているものとはいえず、本来、発明の技術的内容を正確、明瞭、適切に公開すべき明細書及び図面の存在目的からして、この目的に合致するように整えられたものであるべきであることはいうまでもない。しかしながら、以上に検討したとおり、本願発明の特許請求の範囲それ自体は明確であり、右明細書及び図面を精読するときは、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であるならば、その記載上、発明の目的、構成及び効果を理解したうえ、容易にその実施をすることができる、といえないわけではない。

結局、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

第一の面及び該第一の面に垂直な第二、第三の面を有し、該第二、第三の面はそれぞれ単一の面に横たわつていると共に互に電気的に絶縁されている、電気的に非導電性の高耐熱基体から成り、前記基体には、該基体内方に部分的に延びそして前記第二、第三の面から隔置されしかも前記第一の面と連通している開口の与えられた複数の隔置された空洞と、前記開口の各々を包囲しかつ前記第一の面に結合されている導電性材料からなるパツドと、前記第二の面にて支持されている少なくとも一つの電気的装置と、前記電気的装置を前記パツドに接続している複数の導電路と、前記空洞の各々に固定して設けられたリード線と、そして前記リード線の各々を前記パツドに電気的に接続している金属堆積物とが設けられていることを特徴とする電気的構成要素。

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